第12回 ドレミファソラシド謎解きの旅 その2 ピタゴラス音律

前回は、ラが440Hz、1オクターブ上がると周波数は2倍で弦の長さは半分になること、そしてそのことがグランドピアノの形につながることをお話しました。今回は2500年前にタイムトリップします。

2500年前、ピタゴラスの発見

今から2500年前、とある男が、鍛冶屋の前を通る度に聞こえる金鎚の叩く音にある特徴があることに気づきました。それは、金鎚を叩いて鳴り響く音たちが心地よく響き合う場合とそうでない場合があることでした。興味を持った男は音の研究を始めました。

楽器を演奏し音を研究するピタゴラス

古代ギリシアの数学者ピタゴラスです。ピタゴラスは金鎚の重さにその謎を解く鍵を発見し、音の研究を始めます。弦を弾いて出る音と弦の長さの比に法則があることを突き止めました。

長さの比が3:2である弦を弾いて出る2つの音が心地よく響き合うという法則です。弦の長さ3を弾いて出る音をドとすれば、弦の長さ2から出る音がソになります。これは、ドに対して心地よく響き合うソの音が決まることを意味します。これが和音です。

すると同じようにソの音に対して心地よく響き合う音を決めることができます。それがレ。するとレに対してラというように音階をつくることができます。3:2という弦の長さのルールによってドから始めて次々に音が決まっていくことになります。

ピタゴラスのドレミファソラシド 〜ピタゴラス音律〜

詳しくみていきます。最初のドを長さ3の弦だとします。ここから始めて弦の長さを3分の2倍と2倍にすることを組合せて図1の「1オクターブの範囲」とある帯にドレミファソラシドをつくっていきます。

ドから3:2の弦の長さで決まる音がソです。次にそのソの弦の長さを3:2にすると1オクターブの範囲から外れてしまいます。これは1オクターブ高いレです。そこで1オクターブ下げるために弦の長さを2倍にしたものをレとします。

図1

レの弦の長さを3:2にすると1オクターブの範囲内にあるのでこれをラとします。ラの弦の長さを3:2にすると1オクターブの範囲から外れるので弦の長さを2倍してミとします。

ミの弦の長さを3:2にすると1オクターブの範囲内にあるのでこれをシとします。シの弦の長さを3:2にすると1オクターブの範囲から外れるので弦の長さを2倍してファとします。

ピタゴラス・マジック

こうしてドからはじめて
ド→ソ→レ→ラ→ミ→シ→ファ→?
と音階をつくることができます。はたして最後の?が実に興味深い結果となります。ファの弦の長さを3:2にすると1オクターブの範囲の下限の長さになるのが分かります。1オクターブの範囲の上限の音が最初のドでしたからこの音は1オクターブ上のドです。

ドから始まり、弦の長さを3分の2倍と2倍にすることを組合せることで最後がドに終わるということです。こうして作られるドレミファソラシドの音階はピタゴラス音階、弦の長さ3:2のルール(ドレミファソラシドのつくり方)はピタゴラス音律と呼ばれます。

未完のピタゴラス音律

ラ(A)の音が440Hzを説明した時にピアノのドレミファソラシドの周波数も説明しました。ド(C)は261.6Hz、ソ(G)は392Hzです。ドとソの周波数の比は392÷261.6=1.498470…。1.5つまり3/2にほとんど等しいことが確かめられます。

図1で分かるように、正確には最後のドの弦の長さは最初のドの半分にはなっていません。これは音階にとっては見過ごせない問題です。現在のピアノは実はピタゴラス音律でつくられたドレミファソラシドではありません。ピタゴラス音律はよくできていますが「ズレ」が生じる欠点があります。

2500年前にピタゴラスによって考え出されたドレミファソラシドはそこから長い長い旅に出ることになります。そしてようやく現在つかわれている新しい音律にたどり着きました。次回はピタゴラスから千年後の17世紀にタイムスリップします。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。「桜井進の魔法の算数教室」と「桜井進の数学浪漫紀行」を毎月開催。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
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